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安田 慎矢さん

更新日:2023年04月06日

【取材対象者】
安田 慎矢(やすだ しんや)さん
【取材対象店舗】
居酒屋 慎-Shin-

さつま町の魅力は人々の温かさ―― 家族や周囲に支えられながら、 生まれ故郷で夢だった居酒屋をオープン。

さつま町を東西に貫くように走る国道504号線沿い。もともと和食店だった建物を改装して居酒屋「慎-Shin-」がオープンしたのは、2019年10月のことでした。店内の広々とした宴会場に目をやりながら、店主・安田慎矢さんは次のように当時を振り返ります。「コロナ禍が始まったのは、まさにその直後からでしたね。翌春の忘年会シーズンはほとんどの予約がキャンセルになってしまって…。それからしばらくは本当に大変でした。落ち着き始めたのは最近になってからで、ようやくオープン当初の客足が戻りつつあります」。

もともと安田さんはさつま町の出身。幼少時から無類の料理好きで、小学校の頃には漫画やゲームには目もくれず、友達との遊びといえば家でハンバーグなどの料理を作ることだったそうです。もちろん将来の夢は料理人になること。高校は町からバスで1時間30分ほどの距離にある私立の調理科を選択し、卒業と同時に調理師免許を取得。そして最初の就職先に選んだのが、大阪を拠点に展開する海鮮居酒屋でした。「実は高校生の時に町内の居酒屋でバイトをしていたのですが、その時の経験がものすごく楽しくて…。店主さんは自由な発想をお持ちの方で、和食だけでなく洋食も出すし、ある時は急にラーメンを作り始めたこともあったほどです。お客さんに喜んでもらえるなら、ジャンルの枠を超えてどんな料理にも挑戦できる。そんな『居酒屋』という業態に強く惹かれ、自分も将来的には居酒屋を開きたい、そう思うようになりました」。将来に向けて居酒屋経営の基礎をしっかりと学びたい。そんな決意を胸に、安田さんは生まれ育ったさつま町を後にしました。
 
ところが大阪での料理人生活は、思った以上に大変だったとか。朝早くから店に出勤し、長い時間を掛けて仕込み作業をした後に、ようやく営業時間がスタート。厨房は常に引切り無しの料理注文で大忙しとなり、そのまま閉店となる23時前後まで店にいることも珍しくなかったといいます。「調理技術の面で学ぶことは多かったのですが、すぐに体力的な限界を感じるようになりました」。生まれ育ったさつま町とは全く異なる生活環境も、心理的なストレスを感じる一因に。「当時は会社が借り上げたアパートに住んでいたのですが、隣人と顔を合わせることもほとんどなく、どんな人かわからない状態でした。店の先輩や同僚以外とほぼ会話する機会もなく、孤独を感じることも多かったですね」。
そんな状況にあった2021年7月、地元・さつま町が集中豪雨に見舞われ、各地で大きな水害が発生します。安田さんの元にも、かつてバイトをしていた居酒屋が浸水被害にあったという知らせが。「大変な状況を聞くにつれ、居ても立ってもいられなくなりました。毎日の生活に行き詰まりを感じていたこともあり、すぐさま勤めていた店に辞表を提出。店の復旧を手助けするために、さつま町に戻ることにしたんです」。こうしてまたさつま町に戻ってきた安田さん。その大きな働きもあり、高校生の時にアルバイトをしていた居酒屋は再び軌道に乗り始めます。その様子を見て、安田さんはすぐさま次のステップへ。鹿児島市内へと居を移し、しばらくは繁華街の飲食店でさらに料理の腕を磨くことにしました。
 
「鹿児島市内で暮らす中で妻と出会い、2人の子どもにも恵まれました。ただ『いつかは自分の店を』という目標は常に抱き続けていましたね。ちょうど上の子が小学校に進む前の年になり、途中で転校をさせたくないという想いから、このタイミングで新たな挑戦をすることを決意。まずは慣れ親しんださつま町で、空き店舗探しを始めることにしたんです」。そして今の店に巡り合ったのが、2019年の初夏のことでした。引っ越しを機に、思い切ってさつま町内に家も新築したそう。生活資金や開業資金の一部には、さつま町独自の移住制度である「移住定住促進補助金」や「商工業新規参入者支援補助金」を活用。「その後すぐにコロナ感染の拡大により先行きが全く見通せない状態になりましたが、今思うとこれらの補助金の存在にはすごく助けられた気がします」。

現在安田さんが住んでいるのは、彼が生まれ育った時吉(ときよし)地区。特にこの地区は、さつま町の中でも人と人との繋がりが強い場所としても知られています。引っ越し当初は、2人の子どもたちが地元に溶け込めるのか不安もあったそうですが、盛んな地域活動に積極的に参加するうち、地域に自然と馴染むことができたのだとか。最近も地区内で開催された駅伝大会や鬼火焚き(とんど焼き)に家族みんなで参加し、地区の人々と楽しい時間を過ごしたそうです。「休日は、遊具がある北薩広域公園に家族で遊びに行ったり、車で1時間ほどの鹿児島市内に買い物に出かけるなどしてリフレッシュを図っています」と安田さん。2023年には第3子となる男の子も生まれ、家の中はますます賑やかになりました。